大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2015号 判決

被控訴人(被告、反訴原告)と千代田自動車及び特殊工業との間の東京地方裁判所昭和二十七年(ワ)第七、〇三四号建物収去土地明渡請求事件につき、同裁判所で同年十一月二十七日成立した和解調書に「一、被告千代田自動車は別紙目録表示の宅地(東京都新宿区上落合二丁目六百七番地九十二坪)につき原告(本件の被控訴人)との賃貸借契約は昭和二十七年六月二十九日解除となつたことを認める。二、原告は別紙目録表示の宅地を被告補助参加人特殊工業に対し工場敷地として昭和二十七年十二月一日より左記条件により賃貸すること。(1)賃料一箇月坪当り金十円合計千四円也毎月末日限り原告方に持参支払うこと。(2)期間二十箇年。(3)右賃料の支払を六箇月分以上遅滞した時は催告を要せず前記賃貸借契約を解除することが出来る。この場合参加人はその所有の地上建物である別紙目録表示の建物(東京都新宿区上落合二丁目六百七番地、家屋番号同町六〇七番の二、木造ルイヒング葺平家建工場一棟、建坪二十六坪二合五勺)を即時収去して第一項の土地を明渡すこと。三、被告千代田自動車及び特殊工業は原告に対し連帯して昭和二十七年一月分より同年十一月分迄の一箇月坪当り金七円也(合計金六百四十四円也)の割合により別紙目録表示の宅地の賃料及び損害金合計金七千八十四円を昭和二十七年十二月末日限り原告代理人方に持参支払うこと。四、参加人特殊工業は原告に対し借地権設定料として金六万円也を昭和二十七年十一月末日を第一回として毎月末日一箇月金二万円宛を原告代理人方に持参支払うこと、但し特殊工業が右支払を一回分でも怠つた時は第二項記載の賃貸借契約は効力を失うこと。五、原告その余の請求はこれを放棄する。六、訴訟費用は双方各自弁のこと。」という記載のあること及び東京地方裁判所が昭和三十年十月二十二日控訴会社を右和解成立後に前記建物に移転して来た者で和解調書における債務者特殊工業の承継人としてその調書の正本につき承継執行文を被控訴人に付与したことは当事者間に争がない。

よつて右承継執行文付与の当否について按ずるに、当審証人都築尚夫、斎藤密蔵の各証言と成立に争のない甲第四号証、原審証人富田長五郎の証言によつて真正に成立したことが認められる同第二号証、右斎藤の証言によつて真正に成立したことが認められる同第一号証、第十二号証、第十四号証、その方式趣旨に徴し第三者により真正に作成されたものと推認される同第十号証の一、二、第十三号証、第十五号証の一、二、第十六号証とを総合すると、特殊産業は特殊工業の子会社であり、昭和二十六年十二月若しくは、翌昭和二十七年一月頃本件建物を千代田自動車から買い受け、これを工場として塗料及び熱処理に関する事業を行つていたが、事業不振で特殊工業に対する債務の弁済ができなかつたため、間もなくその代物弁済として本件建物の所有権を特殊工業に移転し(但し、建物は引き続き特殊産業で占有使用)たこと及び控訴会社は前記のように特殊産業が事業不振であつたためその第二会社として昭和二十七年九月一日設立されたものであつて、その設立とともに本件建物の占有使用関係を含め特殊産業の事業を引き継ぎ、本件建物については同月二十二日改めて特殊工業とこれが賃貸借契約を結び今日に至つていることが認められ、原本の存在並びに成立に争のない甲第六号証中のこれに副わない記載部分はにわかに使用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

そうすると、控訴会社は本件和解調書における債務者特殊工業のその和解成立後の承継人ということはできないから、控訴会社をかような承継人として行われた本件承継執行文の付与は違法としてこれを取り消す外はない。

よつて、これが取消を求める控訴会社の本訴請求は正当として認容すべきであるが、控訴人がこれに関連して求めている強制執行不許の宣言については、執行文の付与に対する異議の訴では執行文の付与取消の外に強制執行不許の宣言を求めるべきものではないのであつて、控訴会社の意図も本訴の性質がかようなものである以上あえて強制執行不許の宣言を判決事項として請求しているものとは認められないから、その請求については裁判しない。

(岡咲 田中 脇屋)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!